猛暑だろうが冷夏だろうが、夏には決まってモノトーンな気分に。周りの人からの「夏なのに全身黒なんて暑苦しそうだな」という視線をも全く気にせず黒ばかり着たくなるのです。
そんな私も自分の中に秋のタネを見つけると、俄然柔らかい色を纏いたくなります。
自然の変化を十二分に楽しみ取り入れてきた先人は、きっともっと色には敏感だったはず。そもそも「色」という言葉の由来はなんだろう?
私たちが使っている言葉はどんなありふれた単語であっても、かつて誰かが生み出し、多くの人たちによって育まれてきたもの。言葉の由来は、時間と空間を超えて先人たちと私の心をつないでくれているものだと思うのです。
まずは「色」という言葉と向き合ってみることに。
「色」は、新選古語辞典によると「物の特徴を表す色彩の意が元で、さまざまに転義する。抽象的な観念は後世になってから」の断り書きがあり、たくさんの種類の記載があります。
1. もの特有の色彩
2. 種類
3. ものの情緒
4. 顔色、表情
5. 服色
6. 喪服の色
7. 形容動詞「いろなり」の語幹となる。美麗、派手
8. 好色、恋愛、情事、情人
広辞苑で引いてみると、「視覚のうち、光波のスペクトル組成の差異によって区別される感覚。光の波長だけでは定まらず、一般に色相、彩度および明度の3要素によって規定される。色彩。」という項目は増えていますが、そのほかはおおよそ変わりません。
漢字の「色」は訓読みで「いろ」、漢音で「しょく」、呉音で「しき」。呉音とは漢音以前にあった漢字の日本語読みで仏教用語に多く、これらのことから「色」は中国伝来の言葉であり、仏教とともに我が国に導入されたとの説があるそう。
5世紀頃、「般若波羅蜜多心経」が伝えられ、その中の「色即是空」「空即是色」が般若心経の精神を最も的確に表現するメッセージとして高い評価を受けました。この「色」は「しき」と読ませ、すべて存在するものということ。「この世のあらゆるものには実体がない。そして、実体のないものがこの世のあらゆるものや現象を形成している。」という意味になります。
そして、この「いろ」には「色(カラー)」の意味は含まれていないが、同母の体内から生まれた関係という意味から、性に関した言葉になり、やがて「いろ」好み、「いろ」ごとなどのような言葉ができたのではないかと思われています。
春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出でたつ少女(大伴家持)
——–春の庭園に桃の花々が日の光に照らされて、紅色に輝いている。
その花の桃色の光がふりそそぐ下の道にふと立ち現れた少女のなんと美しいことよ。
花の色は うつりにけりないたずらに わが身世にふる 眺めせしまに(小野小町)
——–春の長雨が降っている間に、桜の花の色はむなしく衰え色あせてしまった。
ちょうど私の美貌が衰えたように、恋や世間のもろもろのことに思い悩んでいるうちに。
「色(カラー)」に変わる言葉は主に「匂ひ」で、少なくても「匂ふ」と「色」は共存していたようです。これらの2つの歌はそれぞれにカラーという意味の「色」として、「色」と「にほひ」が使われているのがわかります。
「匂ひ」は、
1. 色が美しく映えること
2. 艶のある美しさ、気品
3. 色が照り染まる
4. 影響が及ぶ
などと記されており、「色」は「匂ふ」ものであることがわかります。
真言宗の開祖、空海によって「般若心経」の真髄をまとめた「色は四十七字」
色は匂へど散りぬるを (いろはにほへと ちりぬるを)
我が世誰ぞ常ならむ (わかよたれそ つらならむ)
有為の奥山今日越えて (うゐのおくやま けふこえて)
浅き夢見じ酔ひもせず (あさきゆめみし ゑひもせす)
「桜の花はあっという間に散ってしまう。この世のどんな成功者も、一体誰が永遠にその栄光を保ち続けられるのだろうか。その無常の世を悲しみ嘆く私たちが、死語ではなく、生きているこの時に時にその苦しみを解決し、悩みや迷いを乗り越えて幸福になれる」という仏の教えが、この四十七字に表されているといいます。
歌の流布によって、「色」は物の色という意味が次第に強くなって、「にほふ」から仏教的な「しき」も、世俗的な「いろ」「色ごと」の意味もすべてを包括した言葉として定着して言ったのではないか、ということなのです。
ちなみに歌の元になったと言われているお経は、漢字16字。
「諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽」
先人たちがいつから「色」を感じ取り、それを「色」として認識し出したかについて詳しいことは分かりません。
でも、日々の生活の中で身の回りに訪れる彩の変化に敏感だったことは確か。
どんな経緯でこの「色」たちにそれぞれの名前がつけられたんだろうという疑問が湧いてきました。
参考文献:
「日本の色のルーツを探して」城 一夫 パイ インターナショナル
「日本の言葉の由来を愛おしむー語源が伝える日本人の心―」 高橋こうじ 東邦出版株式会社