「近いうちに八女茶の現場を見てほしいから、時間を作ってよ」
八女茶のブランディングをしている方からいただいた嬉しいお言葉。
京都や静岡など全国に有名な日本茶の生産地はありますが、福岡の「八女茶」もそれらに負けていないどころか、毎年行われる「全国茶品評会」において、農林水産大臣賞を連続受賞するなどの偉業を達成している最高峰だから、「まずは現場を見に行こうよ」と。
物をつくる人、物がつくられる現場が見たくていつもうずうずしている私は、「近いうちっていつ?いつ?」と居ても立っても居られず。
2ヶ月後にはもう我慢できず、1人八女市星野村へと車を飛ばしていました。
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10代後半から合計したら10年ほど茶道を習っていたということもあるし、実家では食後のお茶や3時のお茶などことあるごとにお茶が出てきたので、小さな頃からお茶はすぐ身近な存在。
主にほうじ茶か中国茶を好んで飲んでいましたが、実家を離れてからは紅茶や工芸茶に凝って、一時期は家に50種類以上も常備してある状態だったことも。去年の夏に修行をさせていただいた陶芸家 清水善行さんが一番茶を焙煎したほうじ茶の美味しさにはまリ、日本茶熱がまた高まっていたところでした。
まず訪れたのは、太陽は降り注いでいるものの冬のシーンと静まりかえった圧巻の茶畑。ここ八女中央大茶園は70ヘクタールの広さを誇る共同茶園です。茶摘みの季節ではないので人影は全くなく貸切の劇場を見ているよう。思ったよりも緑の濃いお茶の葉たちの姿勢の良さは、こちらの背筋が伸びる思いです。
そこから、ご紹介いただいた木屋芳友園と星野製茶園に。
ここから「!」が多過ぎて、ほとんど写真を撮る余裕なし。
でも、しっかり感じてあじわってきました。
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自分に都合のいい持論の1つは、「現場に行く前に調べ過ぎない」こと。
取材やインタビューでは失礼にならないように気をつけますが、旅行などは最低限だけ調べて、可能性のある余白をできるだけ残す。
とにかく自分がニュートラルでいられることを大切に。
今回も「全国茶品評会」のことも八女茶の歴史や玉露のことも調べずに、日本一の玉露を先入観なしに5感で感じてこようと、調べたことといえば日本におけるお茶の生産地第6位が八女茶だということくらい。
聞いていた情報はというと、
星野製茶園の山口真也さんは茶師十段位という日本に13人しかいない資格の持ち主で、少し見て香りを確認しただけで品種や産地がわかるすごい方だということ
八女伝統本玉露が農林水産大臣賞を何度も受賞しているということ
完全に丸腰です。
きちんといれていただいた玉露の味わい深さは、わたしの拙い語彙力ではとても言い表せないものでした。日本茶が飲めるカフェで玉露をいただいたことがあるはずなのに、それとも違うはじめての体感。ワインスクールで教わった言葉を並べてみようとしましたが、舌の感覚と脳みそが全く繋がらず。正直に言うと、美味しいと言うより旨味のアタックにただただ驚きました。
玉露の栽培方法は独特。一般的な煎茶は日差しをたっぷりと浴びせて育てるのに対し、玉露は摘み取り前のおよそ20日前後から直射日光を避けるために覆いをする。これにより旨味成分であるテアニンが増加し、茶葉に旨味がギュッと凝縮されるのだというのです。
既存の玉露と伝統本玉露、水出しの飲み比べもさせていただきました。
これは、正直どちらが美味しいというのは好みの問題だと思ったので、その気持ちををぶつけてみました。すると、賞を取るためのものは見た目の美しさや香りなど総合的にたくさんのポイントがあり、味だけではないとのこと。もちろん味も好みがあるので、賞を取ることだけに固執せずに自分たちが長く作ってきたものは、それはそれで守っていきたい、とのことでした。
「どんな水を、何度で何分蒸すのか。」といった美味しいお茶のいれ方についても、気候や相手の体調などいろいろな条件もあるので、毎回毎回1番美味しいお茶をいれてあげようという気持ちだと。
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案内してくれるのを待てないほど居ても立ってもいられなくなった感覚は、やっぱり当たっていたよう。
空っぽの頭で臨んだ現場でのお茶体験から、仮説を立てて調べてみたり、聞いたことをもっと深掘りしてみたり、実際に疑問をメールでぶつけさせていただいたり。それから毎日試行錯誤しながら自分でお茶を入れ、情報摂取を繰り返し、知れば知るほど楽しめるんだ!という時間を楽しんでいます。
こころが揺れるということは、たとえ風が逆向きであっても自分にとってかけがえのないもの。自分の感覚に自信が持てるように、目に見えないこの感度の解像度を細かくしていけるように動いていきたいなと。もちろん、日本茶やお抹茶がいただける場所や新しいアウトプットが増えているので、これからさらにブームになるであろう追い風なのですが。
これからメーンイベントでもある茶摘みをみにいったり、年間を通してお茶と向き合いながら、疑問を持ったり解消したりしながらじっくりと向き合っていこうと思っています。
もちろん、日本中のお茶の産地を訪れたいと思っています。きっとそれぞれに土地や作り手の特徴があって彩り豊かなんだろうな。
中国から日本に伝わったお茶は、九州から入ってきて日本の歴史と共に京都で栄え、満を持して九州に戻り。そしてそこで日本を代表する最高級のものが作られるなんて、お茶の歴史もおもしろい。
「宇治には深い歴史があって、そこには到底叶わない。でも宇治からたくさんの教えをいただいて、今の八女があるんだ。」と八女の方から聞きました。
品評会などの指標はあるものの、たくさんの産地がそこでしか作れないものを切磋琢磨して作っている。
もっと真剣にあじわおう。
最後にできたばかりの八女伝統本玉露のサイトを。