自然の、手ざわり。

8歳の家族で北海道一周旅行をしました。

 

生まれたばかりの弟を含む家族5、東京からフェリーでステーションワゴンと一緒に出発した3週間の旅は、後部座席で弟と喧嘩ばかりしていた記憶が一番鮮明ではあるけれど、所々で北海道の本質に触れた旅だったように記憶してます。

東京とは違う、どこまでも続く広く長い一本道をひたすらドライブした記憶や、父親がウニ丼ばかり食べていた記憶とともに、その歴史やかつての姿に驚いたアイヌ村のこと、北方領土の話を聞きながら日本最北端の岬で撮った記念写真のこと……ところどころは鮮明に覚えています。

 

そして、この夏37年ぶりに日本最北の島、礼文島へ。

礼文島は人口2500人ほどの小さな島です。名前の由来は、アイヌ語ででは「沖の・島」を表す「レプンシㇼ(repun-sir)」と呼ばれ、日本語名はこの「レプン」に字を当てたものだそう。

 

「花の浮島」と言われているほど、夏には貴重な高山性の約300種の花々が咲き乱れ数々の美しい礼文固有種も

 

ふらりと訪れた礼文町郷土資料館によれば、はじめて人が定住したことがわかっているのは縄文時代中期頃。そのあと後期になると遺跡の数が増えますが、晩期には遺跡数が激減。今では一箇所しか残っていないんだそうです。

数ある出土品の中でも、縄文時代後期の船泊遺跡から出土した貝のアクセサリーは、縄文人の魅力を今に伝える貴重なもの材料となる貝はビノスガイやサラガイ、ウバガイなど、遺跡のある船泊湾に生息する貝がほとんどで、今でも遺跡の目の前の砂浜にはこれらの貝がたくさん打ち上げられています。

 

こうした貝のアクセサリーは、島外との交易に用いられていたと考えられていて、遺跡からは、島内はもとより北海道でも採れないイモガイやタカラガイ、新潟県産のヒスイやアスファルトなどが出土しています。

 

これらは国の指定重要文化財として、島の宝だけでなく日本の宝として大切にされています。太古から人が行き交っている北の浮島で、縄文時代の魅力を伝える貴重な宝物に出会うことができました。

島は高山植物に溢れてはいますが標高は500メートルもなく、最高峰は490mの礼文岳。その礼文岳中心に分布している白亜紀の礼文層群と新第三紀の元地層などから構成されています。

 

地蔵岩周辺から11150年前のアンモナイトの化石が見つかっていることや、新第三紀の地層には海底火山の残骸からできていること、桃岩は約1300万年前のマグマが海底下で固結したものであるということから、礼文島の形成は海底であると考えられています。

 

礼文島の夏は涼しく、私が訪れた8月頭では朝は15度、日中25度程度で過ごしやすかった、というよりも日陰は寒いくらい。

 

でも、かつては海底だったと思わせる壮大な地層をあらわにした自然の中に身を置くだけで本当に気持ちがよく、地球に抱かれている気持ちになります。

 

何より天気に恵まれ、お隣の利尻島の利尻富士(標高1721m)がくっきり鮮明に見えたことも、さらに感動を高めてくれました。

 

旅の一番の目的は、いつも昆布をお取り寄せさせていただいている漁師の山本文平さん

 

友人シェフから紹介してもらって以来、あまりの美味しさにずっと愛用している山本商店の昆布、この現場にどうしても訪れたかった

 

山本商店のパッケージは山本さん自ら掘った版画がプリントされているのですが、力強くアーティスティックなので、一体どんな方なんだろうととても気になっていました。

 

そこで、友人のシェフらが主催する礼文島のツアーに参加することに

 

山本さんの昆布は、スーパー並んでいるものとは全く味がちがうのです。山本さんの昆布と出会う前は、高級昆布は幅が広く大きく形が整ったものを指すものだと思っていましたが、これも目から鱗の驚きの事実が。

 

それもそのはず、礼文島の南で取れる昆布は、昆布のロマネコンティと言われるほど特別なもの。

 

礼文島の夏は1.5ヶ月と驚きの短さ。その1,5ヶ月の中で漁に出られるのは多くて10回とのこと。もちろん、ができるのは漁業組合で決まった時間のみ。

 

しかも、公園のボートが少し大きくなったくらいの小舟に乗り、海中を覗きながら一つ一つ

竿の先についた鉤(かぎ)でねじり切ったり、鎌のようなもので根を切って引き上げます。

 

最近は手元の機械で舟のコントロールするそうですが、足で櫂を操る漁師もいます。

 

 

雲丹も同じように船から身を乗り出し、海中を覗きながら11つ採る。

 

想像もしていなかった自然と一体になった漁を目の前に、山本さんの、自分の生き方を重ねて考えずにはいられませんでした。

 

山本さんは、獲ってきた昆布漁業組合に一旦収めまた買い取り、個人で販売しています。

 

組合で決まった昆布の優劣は、肉厚で幅と長さのある立派なもので、何段階かのランクが定められており、測定により買取の値段が決められています。

 

でも、山本さんは「本当に美味しい昆布は幅と長さでは測れない。一度最高の長さになった後に縮むその時なんだ。高く組合に買い取ってもらうより、お客様に本当に美味しいものを届けたい。」と。

 

山本さんは、自分の目先の利益よりも、その先の誰かの笑顔を想像して海に出ている。

 

初対面はタトゥーだらけでファンキーなお兄ちゃんという印象でしたが(ごめんなさい!)なんて真摯に自然と、そして自分と向き合った真っ直ぐな生き方をしているんだろう、とその背中から目が離せなくなりました。

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