いのちの、手ざわり。

いつもお取り寄せをさせていただいている礼文島の漁師、山本文平さんを知ったのは友人のレストラン レフェルベソンスのシェフ生江さんの紹介でした。

 

自分の生活を根本から見直そうと思い、まずは食生活をしっかりしようと基礎調味料について教えてもらっていた時のこと。ちょうど生江さんは、その時に自身が働いているレストランのムービーを撮るため北へ南へ取材に出かけている真っ只中でした。

 

そんな中店舗でも使用している昆布をはじめとした基礎調味料を教えてもらい、連絡をさせていただいたのが山本さんとのはじめましてです。

 

8月頭に訪れた礼文島では昆布や雲丹漁のあれこれも拝見できたことはもちろん、礼文島の皆さんと、なによりも山本家の皆さんと知り合い、短い時間でしたが一緒に過ごすことができたことが、私の中で本当に濃く深いものとなりました。

 

私、まだ礼文島の思い出に溺れてます。(笑

山本家を訪れた時、文平さんが前日に採ってきた昆布を家族みんなで干す作業をしていました。

 

引き上げられた天然昆布は、端の黄色くなり枯れかけているものが採り時。大きな桶で洗浄し、その翌日に乾燥させます。

 

1日目は早朝から約7〜8時間、これで8〜9割くらい干し上がるそう。そして翌日に約2時間ほど仕上げ干しを。砂利が敷いてあるのは砂で汚れないようにするため、そして砂利自体も太陽で熱くなるので乾燥が進むためだそうです。

 

天気が良いとは限らない礼文島では機械で乾かす方が効率的かもしれませんが、手間がかかって大変でもはりり天日に干した方が美味しいはず。山本さんのこだわりです。

 

風に飛ばされないように1枚ずつ砂利の上に並べ、天日干し。

 

うがぁーーーー腰が痛いよぉー!」と次女の咲ちゃんが叫ぶ声が響くと、長女の麻埜ちゃんがふふっと微笑む。でも、2人とも手は止めずに、しっかりお手伝い

並べ終わったら息つく暇なく、すでに1日干した昆布をもう一度並べて、再度干す。

 

そして、干しが終わったら束ねて室へ。昆布の様子を見て少し重石をすることもあるそうですが、2日目干しが終わると再度束ねて熟成へ。

 

昆布は2年生で、1年目の昆布は小さいので商品にはなりません。夏の間にある程度育つと一度枯れ、2年目の昆布が成長し始めます。2年目の7月十分に育った昆布ができあがるのです。

 

と、見て聞いてきた昆布情報をあれこれ書きましたが、透明に澄んだ輝かしく美味しいお出汁が取れる礼文島の天然利尻昆布は、壮大な自然が時間をかけて生み出し、漁師さんたちがそれに手間暇と気持ちをかけたことでできているんだと、改めて。

 

昆布の美味しさに驚いて山本さんを訪ねたい!と思った私ですが、礼文島では他にも美味しい副産物がついてきました。笑

 

今回、昆布漁を1ミリも知らないにも関わらず、ありえないことに全く調べず訪れたのですが、礼文島の漁師は、主に春はワカメ、夏は昆布と雲丹、冬はアワビ漁をしているそう。

 

その他にも𩸽(ほっけ)、イカタコ、カニ、ナマコなど盛りだくさんの海産物に囲まれた豊かなでした。

その中でも特にスペシャルなのは雲丹!エゾバフン雲丹です。

 

礼文島の雲丹は、美味しい昆布を食べて育っていると言うこともあり、味は格別。

 

私たちが礼文島に到着した日まで、天候に恵まれずに11日も漁に出られずにいたとのこと幸いなことに到着した日も次の日も気持ちの良い快晴だったので見学に行った日は久しぶりの漁!いつもの倍以上の大漁でした。

 

漁協に持ち込み、すぐに殻から身を掻き出していきます。もちろん、これも家族全員で。長女の麻埜ちゃんはおばあちゃんとお母さんの綾さんと一緒に手早く作業をしています次女の咲ちゃんはお家で3歳の長男の面倒を。これも重要なお手伝い。

 

この日は大漁すぎて5.6時間は殻取りの作業をしていたと思います。手伝いたくても足手まといになるだけなのはわかっているので見守るしかできませんでしたが、家族みんなで力を合わせている姿は、「日々を暮らす」と言うことの本質を見ているようで、本当に美しかったです。

この日、周りの漁師さんたちが次々と戻ってくる中、山本さんはなかなか海から帰ってきませんでした。なぜなのか理由を尋ねてみると、「まだ小さい子供の雲丹も採っちゃったから、それを選別して海に返していた」と言うのです。選別しきれなくて沖まで持ってきてしまったものも、後できちんと海に返しにいくも。

 

「僕はすごい漁師じゃない、それはわかってる。でも、良い父親でいたいんだ。この海は彼らのもの、そして未来に繋げていくものだから。」

 

ツアー初日の夜に友人シェフの生江さんが、「礼文島には美味しい海産物も、美しい自然もあってどれも本当に素晴らしいのですが、僕が一番だと思うのは礼文島の人々です。また、来たい帰りたいと思う場所なんです。」と言っていました。

 

会う人、会う人があまりにも朗らかで気さくなので、夕方ついたばかりだったのですがこの時すでに感じてはいましたが、山本さんのまっすぐな気持ちに心を激しく揺さぶられました。

 

当たり前と言えば、当たり前のことですが、これをきちんとできている人、そして、笑いながら明るくしっかりと言葉にできる人ってどれくらいいるだろう……

 

礼文島は日本最北端の宗谷地方の気候、総じて北洋の気候に支配されますが、日本海側のため対馬暖流の影響を受け内陸の気候と比べると比較的温暖です。オホーツク海から流入する流氷の影響もほとんどなく、夏期は冷涼で冬期は温暖となり、また本州ほど四季の区別のない気候になります。

 

とは言え冷夏も多く、9月は比較的天候が安定しますが10月以降は大陸の高気圧に支配され気温が低くなり、12月に入ると雪の降る日がしだいに多くなり年内には根雪に。1月から2月にかけては大陸性の高気圧の影響を受け、北西の季節風が大変強くなり、内陸ほど気温は下降しませんが積雪は多く、強風の厳しい季節を迎えます。

 

私たちの宿泊した旅館「花れぶん」も営業は5月末から9月末までの4ヶ月のみ。ここからも、礼文島の自然の厳しさを感じます。

 

わずか人口2500人の小さな島は、厳しい環境の中で前向きに笑顔でいることが染み付いているのかもしれない。

メールでやり取りをさせていただいていたけれど、山本文平さんにはじめてのご挨拶をした時の言葉が、「あーーーーーーー!なんか見たことあるぞ!」でした。笑

 

なんの引っかかりもなく、音もなく心の扉を開けてくれてするっと仲間に入れてくれる。なんて心地がいいんだろう。山本家の皆さんともあっという間に仲良くなり、時間は限られていましたが、表層的ではない心からのやり取りができたように感じています。

 

3人の子供たちとは、小さな蟹を採ったりメノウ石を拾ったり、長女になった気分で夢中になって一緒に遊びました。小蟹はお味噌汁にしたら美味しいのかしらなんて思っていたら、心の優しい子供達は、採ってもきちんと海に返してあげるんですよね。

 

命をいただき、命を繋ぐ。でも、自然への敬意を大切に必要以上はいただかない。きっとご両親の姿を見て育っているから、当たり前にできることなだな、と。元気で明るく、ピュアで真っ直ぐなこの3兄弟にすっかり骨抜きにされてしまいました。

会ってみたいという想いから始まった旅は、笑顔、ぬくもり、感心、学び、尊敬……たくさんの温かい気持ちを私に運んできてくれました。ここまで人と人との素晴らしく和やかなミュニケーションが重なり合うことはない、そう思います。

 

いつわらない正直でのままだからこそ、礼文島にはたくさんの個性が、複雑性があると感じま自分と、自然と向き合うとはこういうことなんだな。

 

また、すぐ帰りたい。

 

最後に、この出会いのきっかけになった動画のショートバージョンを。ロングバージョンは近いうちに様々な場所で公開される予定だそうです。お楽しみに。

 

「DASHI JOURNEY」TRAILER

 

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