大切にする気持ち。

漆を精製している工房にお伺いして、一番驚いたのは果てしないオーダーメイド。

 

 

堤淺吉漆店では、塗師や個人的に趣味で漆を扱う人達の好みに沿うよう、事細かく硬さや輝き、色などをカスタム。職人さんたちが送り先の用途や好みに合わせてしっかり混ぜていました。全てをしっかり把握していないとこんな複雑なオーダーにはなかなか応えられないのでは?と驚きました。

 

 

そして、1つ1つ漆を表す時に使用するハンコに目が釘付けに。日本語的に「?」となるものもありましたが、見れば見るほどその細かさに、日本の職人の強いこだわりを感じます。

 

 

 

 

生漆は、綿と一緒に遠心機にかけ、綿に塵や木の皮などの不純物を吸わせます。そこからナヤシ(かきまぜて漆の成分を均一にする)や、クロメ(加熱して余分な水分を取り除く)といった精製作業を行い精製漆になっていく。この漆は、透明な飴色で「透漆(すきうるし)」と呼ばれます。

 

 

また、精製作業において鉄粉をまぜ、酸化作用により漆を黒くしたものが「黒漆」で、黒い漆に。さらに、この「透漆」や「黒漆」に油分を加えて艶のある漆にしたり、「透漆」に顔料を加えて、朱や緑といった「色漆」をつくるのです。

 

 

 

「漆黒の闇」とか「漆黒の髪」といったように、深く、奥行きがある黒を表す時、
「しっこく」ということばを使います。
辞書で調べると、「漆のように黒く光沢のあること。また、その色。」とのこと。

 

 

精製された漆は元々茶色がかった透明で、
黒以外の色漆はこの透漆に顔料を混ぜることで色を出しますが、
黒だけは精製の段階で鉄分を混ぜ、鉄の酸化作用によって、漆自身が黒色に変化したもの。漆の黒は漆だけの独自の色、ということ。

 

 

「純粋な黒。『純白』の対義語。黒の中でも最も暗い色の意として使われることが多く、暗く濃密な闇を「漆黒の闇」、真っ黒で艶のある髪を「漆黒の髪」というように黒の情緒的な表現方法としても用いられる。おもに現代になってから黒の雰囲気を描写する際に使われるようになった色名。」と伝統色の辞書にもありました。

 

 

「漆黒」ということばは、この漆の独自性のある深く艶やかな黒から名付けられたんですね。

 

工房の見学を終えて外に出ると、桶屋さんが桶を洗っていました。樹脂でできている漆は水飴のように粘着性もあり、とても取れにくいのでは?と思いましたが、並んでいる桶はどれもピカピカ。長い間大切に使われてきた、というのがわかります。「綺麗にすることで、ずーっと気持ちよく使ってもらいたいからね!」と輝く笑顔で送り出してくれました。決して大きくはないその背中が、とてもたくましく美しく見えました。

 

 

使い捨て、簡単、便利ということばは私たちの周りには当たり前のようにあります。全く関係のないプリミティブな生活を送るというのは無理があるけれど、自然に感謝して今より少しでも目の前にあるものを大切にしようと思う気持ちを養わないと、気づかないうちに価値観すら変わってしまうのではないかと恐怖を覚えます。

 

 

先人たちが見つけ、大切に繋いできた自然の恵みであるこの艶めいて澄んだ漆のことをもっと知りたくなりました。

 

 

 

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