継ぐ。

kiwakotoのパートナーへ、精製した漆を販売している堤淺吉漆店を見学させていただく貴重な機会をいただきました。塗師や木工作家さんは訪れたことがあるのですが、原料となる漆を精製しているところを見るのははじめてのこと。漆の木を傷付け、そこから樹液を取るということくらいしか知識がなかったので、興味津々でうかがいました。

 

 

漆とは、日本をはじめ中国、朝鮮半島で古くから栽培されている落葉樹から採取される自然の樹脂。樹の幹を引っ搔くと出てくる樹液は加工され、塗料としてだけでなく接着剤としても使用してきました。

 

 

10年から15年かけて育てた木から 200gほどしかとれない、とても貴重な自然の恵みです。

 

 

漆との関係は、縄文時代まで遡ります。漆の木片だけで言うならおよそ12,000年前のものが見つかっていることからも、古くから使われてきた伝統的なものであると言えます。土器の接着や装飾に使われているほかに、漆を塗った木製品や漆の塗られた櫛などの装身具も出土しています。

 

 

弥生時代になると塗装技術も簡略化されたものが多く、武器類への漆塗装が見受けられるようになります。古墳時代になると皮革製品や鉄製品などにも漆加工を用いるようになり、漆で塗装した漆棺なども見つかっています。

 

 

耐熱・耐湿・抗菌・防腐に加えて独特の光沢を得られる漆は、ただ美しいだけではなく実用的だからこそ長く使われてきたのです。

 

 

 

4代目の卓也さんがおっしゃるには、精製できる場所は日本に10軒ほどしかなく、採れる漆の量も15年前に100トンだった市場はいま36トンにまで減っているとのこと。

 

 

国内で使用される漆のうち、国内産はわずか3%たらず。伝統的工芸品の漆器の産地は1府16県で、かつては漆器の産地は漆の産地でもあったのですが、現在では漆を生産している県はわずか1府9県とげ減少しています。

 

 

国産漆の生産地は県別では岩手県がトップで、平成27年では岩手県が821㎏(国内生産量の約70%が)次が茨城県の178㎏、栃木の120㎏とつづきます。

( 引用:うるしの國 浄法寺 http://urushi-joboji.com/joboji/kokusan

 

 

 

生漆は乳白色のカフェオレ色。でも、空気に触れるとすぐ変色して褐色になってしまうとてもデリケートなもの。貴重な国産の漆は、冷蔵庫で大切に保管されていました。

 

 

漆が入っている樽に貼ってあるラベルの左側に所辺・盛辺・末辺・裏目と書いてありますが、これはいつ漆を掻いたかがわかるように区別した表示。

 

 

植林した漆の木が樹齢およそ15年を迎えると、6月の入梅から冬までの半年間にわたり行われる漆掻き。はじめの頃を「初辺」と言い、次は7月下旬から8月のお盆前後に行う「盛辺」。ここで最高の品質「盛漆」を採ります。次は、9月の約1ヶ月間に行う「末辺」。秋になっても漆が採れるのは職人次第といわれます。 10月に入る頃には、これまで漆を採っていなかった箇所からも漆を採る作業「裏目掻き」。根元ギリギリや幹の上の方などにもキズをつけます。11月になると、漆掻きの作業は大詰め。漆が採れそうなところすべてにキズをつける作業「止め掻き」と、採る時期により言い方が違うのです。

 

 

 

輸入漆のほとんどは中国産、実は日本で作られる漆器の大半で外国産漆が使われています。最後の上塗りだけでも日本産漆を使っていればいい方で、100%外国産漆の漆器がほとんど。もちろん、日本産漆は高価で、中国産などの輸入漆はその1/3~1/5と圧倒的に安いからというのが主な理由だそう。

 

 

文化庁は平成30年から国宝などの建造物の修復に、全面的に日本産漆の使用を目指すと発表。これによって、漆の木をより一層大切に扱い、次の世代に繋いでいかなければなりません。

 

 

ここ堤淺吉漆店の4代目の卓也さんは、自ら漆を掻きに山に足を運んだり、「urushi no ippo」という小冊子を発行したりと日本の漆を守るためにできることとして、漆の認知をあげるための発信を精力的に行っています。

 

(画像:urushi no ippo)

 

スケートボードやスノーボード、サーフィンが趣味で、自然の産物である「漆」をアウトドアスポーツとつなげ発信することも模索されています。サーフボードの原型とされる木製ボード「アライヤ」を作るオーストラリアの職人を訪ね、「漆塗り」を提案し、その製作過程を取材した自主制作ムービーを作ったりと、国内外に漆の認知と素晴らしさを広げる活動をされています。(https://www.urushinoippo.com/

 

 

「漆のある未来が、良い循環を生み出すような。人と漆、人の側にあるものにまた戻れるんじゃないかと。この厳しい状況でワクワクしてると言ってはいけないのかもしれないけれど、ワクワクしてますね。」とあるインタビューで語る堤さんの笑顔が希望に満ちていました。きっともっと伝わるはずだと信じています。

 

 

 

最近は漆器の魅力に翻弄され、少しずつではありますが大切に使えるものを集めはじめています。祖母から受け継いだお盆やお椀などはありましたが、知れば知るほど歴史も工程も多く、奥行きも深く色も様々なので、陶器とは違ったアプローチで心にグイグイ入ってきます。作家さんの作品を集めるだけでなく、近いうちにキットを購入し自ら塗ってみようと思っていたところでした。

 

 

文化は生活の中に落とし込めて、はじめて自分たちのこととして認識されると思います。憧れも必要だけれど、自分のものだと感じること、これが重要なのではないかと。伝統的なものに携わっている方々が、枠を飛び越えて趣味の世界や生活へ新しい提案をしてくれくれたら、今まで続いてきた自分たちを支えてくれてきたものへの重みを尊重する人が増えるのかな。消えて無くなってからでは遅いということを、もっと伝えることができたらと思います。

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