自由な余白

以前に東京のギャラリーで、大きな節があったり、穴が開き、歪み、欠けている、でも力強く個性的で表情豊かな木のうつわたちの展示に行ったことがあります。木の表情をそのまま最大限に活かした、そのうつわたちの中から、散々悩んで漆が塗られたガジュマルのうつわを持ち持ち帰ることに。他にはない、その佇まいにすっかり魅了されました。

 

そのうつわたちを作っているのは、沖縄県南城市に自宅兼アトリエを構えている木工作家の藤本健さん。

 

彼のうつわは、赤木、ガジュマル、ホルトノキなど沖縄の個性的な木を中心に、独自の感性で作られています。なんとも言えない野生的で繊細で絶妙なバランス。

 

また個展にぜひお伺いしたいと藤本さんをチェックしていたところ、去年の年末にバナナ畑だったところにご自身で建てた一棟貸しの宿「芭蕉の家」をオープンした、と。今までにご自宅、工場、ギャラリー、そして同じ敷地内にレストラン「胃袋」もすべてをご自分で設計と施工をされたと書いてありました。環境も含め、木工作家の方が造る家にとても興味が湧きました。

 

そして、今年の夏にも知人のギャラリーでの展示を拝見し、「芭蕉の家」に泊まりたい、アトリエを訪ねてお話しをお伺いしたいと思う気持ちを募らせていました。

そんな藤本さんの一棟貸しの宿「芭蕉の家」に宿泊することだけを決めて、導かれるようにふらり沖縄に。

 

「芭蕉の家」は南城市の小高い丘の麓にあり、用事がないと通らないような急な坂の途中の小道を入ったところにあります。

 

「周りは殆ど民家の無い静かなところです。夜は真っ暗です。静か過ぎるところが苦手な方、周りは自然に囲まれているので虫の苦手な方にはあまりオススメ出来ませんが気持ちいいい風が吹き抜けるのんびり過ごすには最高の場所です。」という藤本さんの言葉は本当でした。バルコニーから海が見渡せるとか、窓の外に広がる絶景があるわけではないのですが、旅をしているのに暮らしているように等身大でいられるとても居心地の良い場所です。

 

藤本さんは、沖縄に移住する前は特注家具を製作する東京の家具工場で家具を作っていたそうです。木工旋盤(木材を回転させて木を削る道具)の仕事に元々興味があり、家具を作るよりも最初から最後まで自分でできる、決まり事の少ない今の仕事が向いているとわかったそう。家具は精度が大切なので1ミリ単位でキチキチッと造らないといけない。でも旋盤は好きなように削ればいいから、自分に合っていると。

 

10年ほど前にご自分で一からご自宅を建てられたとのことですが、この家造りをきっかけに自然の素材を活かした、今の作品造りに大きな影響があったとおっしゃっていました。

 

藤本さんは生の木を使ってうつわを作っています。止むを得ず伐採された木や、廃棄されてしまう木使用することが多く、いつどんな木が手に入るかは運次第。手に入ったら、まずその木の特性を活かしながら、どんな形や大きさがいいかを考える。自分がつくりたい形を想像しながら形作っていくと、当初考えていたものと少し違う作品に仕上がることもあるんだそうです。

 

でも、最後は木に委ねる。木の声を聞きながら、対話しながら作っていくことで、裏切られても嬉しいという感じなのかな、と想像しました。

 

日本では木工というときちんと木を乾燥させてから作るのが一般的。なぜなら最初からある程度ゴールとなる形が決まっているから、仕上がった時に狂いがないように乾燥させ、落ち着いた木を使う方が間違いがないから。これは、去年の年末吉野に杉を見に行った時に学んだこと。何百年も行きてきた木は、切り倒されてもなお、すぐには使われず数年寝かして歪まないように落ち着いた状態になってから出荷されていく。

 

安定していない木のうつわは、湿気がある夏場や、寒く乾燥する冬にはまだ少し歪んだりするかもしれない。日々使うことで、水気や油分含んで表情も変わっていく。木という素材を加工する上での決まりごとを、ひとつひとつはずしていきながら自由に作り上げられたうつわたちは、人の手に渡っても自由なコミュニケーションを続けていくような気がします。

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